科目横断的な探究学習と科目学習をどのようにリンクさせていくのかについて、具体例で説明します。

はじめに

今注目されている探究学習は科目や教科を横断的する総合的で応用的な学習です。

算数・国語・理科・社会などの教科や科目を縦糸とするならば、探究学習は横糸を編み込んでいくものです。

探究学習では実社会で役立つスキルを磨くことができ効果的であることは間違いありませんが、基礎となる科目学習が不要である訳ではありません。何事も基礎は大切ですし、より高度な専門性を開拓していきたければ科目的な深掘りは欠かせません。

縦糸も横糸も、互いが支えあっているのです。

そこで、当塾「のびてく」のスローラーニングでは、

スタート地点を好奇心に置き、子ども自身が「知りたい状態」になったタイミングで科目学習(暗記ではなく理解)に繋げていく。

このことを大切に指導を行なっています。

説明だけで深くお伝えすることはなかなか難しいので、今回は科目横断的な探究学習と科目学習をどのようにリンクさせていくのかについて、具体例を書いてみたいと思います。

 

探究学習のテーマ:日本淡水魚の飼育を通して生態系を知る

今から約2年(700日)前に、子どもたちとに小さな池を作りました。

日本淡水魚の池

日本淡水魚の池

  1. 池のコンセプトは農業用水路の再現です。
    (最小限の手入れで済ませ、自然の循環システムを取り入れたい。)
  2. タナゴやモロコやヨシノボリなど身近で可愛い日本淡水魚を採集して飼育しています。
  3. 魚たちの寿命までしっかりお世話することを目標です。

今現在、魚たちは想像以上に大きくなりとても元気に暮らしていますが、その裏でたくさんの苦労や失敗もありました。その都度、調べ・考え・試すことで知恵や知識が徐々に身についてきたように感じています。

今回は700日を振り返り、気づいたことや発見したことなど、池作りを通した探究学習の一端を書いてみたいと思います。

 

魚に関する基本的な情報収集

一年を通して魚たちに健康に過ごしてもらうためには何が必要か?ということ主のテーマとして子どもたちと話し合いを開始しました。

日本淡水魚の池

日本淡水魚の池

まず、魚図鑑やWebサイトなどでタナゴやモロコについての基本的な情報を集めてみると、

水温20〜25度が適温、急激な水温変化は避ける。

と書いてあります。

ここで子どもたちから出た心配事(疑問の一種)として、室内(水槽)に比べて屋外(池)は寒暖差が激しいが大丈夫か?ということでした。

日本の四季を考えると、屋外の池でこの適温を維持するにはヒーターを入れたり、クーラーを設置したりと、相当難易度が高くなります。

これは困りました。問題発生です。

ここで子どもたちから「そもそも農業用水路で暮らしている魚だから大丈夫じゃないの?」という意見が出ました。(←これも立派なクリティカルシンキング・批判的思考を使った切り口です!)

確かにその通りです。

まとめると、

  • タナゴ達は近所の用水路だけに生息している特殊な個体ではなく日本全国の湖・池・川でも生息している。
  • よって、基本的には気温変化に対応できるはず。
  • ただし、水の流入や流出、地形(大きさ、深さなど)が水温に影響しているのかには注意が必要。

このように考えました。(←論理的思考、ロジカルシンキング)

 

しかし、庭の小さな池と用水路の違いはないのか?について、念の為考えなくてはなりません。(←スローラーニングが重視している回り道)

【観察・フィールドワーク】
長年、農業用水路(コンクリート護岸)を定点観察していると気づくのですが、年間を通してずっとタナゴ達が暮らしている訳ではないのです。ある時期には水が止められ流れが全く無くなったり、水たまり程度の水位になったりと、環境の変化が激しく、魚も1匹もいなくなってしまうのです。年間を通して、魚の気配がないこともあります。また、産卵床となる二枚貝の死骸があまりに多いことも気になります。一級河川、支流の小川、用水路は繋がっていますが、町内の河川清掃、コンクリート護岸工事、バイパス工事など、目まぐるしく環境の変化(破壊)も起こっています。安定した池や湖とはまた違った特殊な環境と考えた方が良さそうです。

回り道して視点を広げることで、新しい水が流入してきたり、流出していったり、または大きさ、水深など、庭の小さな池とは違う要素が沢山あることにも気づきました。

そして、自然とは違う小さな池の水温変化をなるべく穏やかにするためには

  • 池の水量はなるべく多い方よい
  • 池の場所は日向と日陰のコントロールができる場所が良い
  • 池の断熱(比熱)を考慮した方がよい

というように、分析的な思考力(横糸的)に加え、科学(物理)や数学に関する知識(縦糸的)への学習意欲が湧き、吸収率が高まりました。

 

【回り道の学習効果】

  • 熱力学の第一法則(熱エネルギーは保存される)
  • 熱力学の第二法則(高温から低温へ移動する)
  • 比熱(物質の暖まり易さ、冷め易さ)
  • 年間と通した太陽の南中高度
  • 水の対流(熱膨張、物質の密度)
  • 太陽の南中高度(地球の自転と公転、太陽系の位置関係)
  • 影のでき方(相似、比、投影図)
  • 単位(長さ、重さなど)

最低限のものをざっと書き出すだけで上記のようになります。

もちろん、これらを完璧に理解する必要はなく、子どもたち一人一人、知的好奇心の方向や理解度(ことば)も違いますので、何をどの順序でどこまで深く追究するかは変わってきて良いのです。

大切なのは、

  • 影は実際に目で見える
  • 太陽は温度とし実際に感じられる
  • 水の流れを実際に目で見える
  • 水温は実際に肌で感じられる

ということです。

五感を使った実体験を伴っているので、必ず頭の中に強烈な印象として残ります。例え、その時点で理解できていなくても後々必ず繋がります。これが学習の吸収率が非常に高くなる理由です。

ここで考えてみてください。これだけの内容を一つ一つ理解するのにどれくらいの時間が必要でしょうか?じっくり(スローに)考えることは必然ではありませんか?

ある分野で突出した人は他の分野でもきっと成功していただろうと言われますが、それは広げ、深く掘り下げ、深く理解していく術を身につけているため、他分野でも十分に応用できるからだと思います。

 

疑問(好奇心):自然界では水質はどのように維持されているのか?

さて、ここまでの内容はまだ「水温」について考えただけです。

知識習得(暗記)を目的とした理科の教科書やテキストなら「ほんの数行」で終わってしまうところですが、探究学習だとこんなにも考えることが出てくるんです。(広がる)

そして、子どもたちと池作りの計画を進めていくと、水温だけじゃなくて、今度は「水質」についても考える必要があることが分かりました。

日本淡水魚の池

日本淡水魚の池

キーワードは窒素循環です。

【窒素循環】
窒素循環とは、タンパク質やアミノ酸など窒素を含んだ有機窒素化合物がアンモニア(NH3)に分解され、さらにアンモニアが亜硝酸(HNO2)、硝酸塩(硝酸イオン-NO3-をもつ塩) へと変化し、その後硝酸塩が窒素ガスに変化すること。

簡単に言うと、魚が餌を食べフンをすると有毒なアンモニアが発生します。それをバクテリアが弱毒の亜硝酸、更に微毒の硝酸塩へと変化させてくれる作用のことです。硝酸塩は植物にとっての肥料になるので、自然界(地球規模)では、うまくバランスされ、生態系が成り立っているんですね。

これを人口的な環境内で実現するのは…おそらく相当難しと思われます。

それだけ、地球・自然とは偉大であるということ。

また、手をつければある程度分かる水温と違って、水質は目で見て判断することが少し難しいです。

ここでも、何かしらの工夫が必要でしょう。

あまりにも長くなるので今回は割愛しますが、子どもたちと一緒に「ろ過装置」を自作してみることにしました。

このように、水温以上に水質に関しては、実際にやってみないことには分からないということになりました。

何事も経験ですね。

 

【寄り道の学習効果】

  • 窒素循環
  • 生態系(ECO)
  • エントロピー
  • SDGs
  • 化学反応式(イオン、電荷など)

 

今は難しくても、こんなことにも自然と関心が向き、学習の根が張り巡らされていきます。

 

実際にやってみて気づいたこと

やってみて分かったのですが、ネットで書かれていることと違うことだらけです(苦笑)

  • 水温の変化
  • 水の色やにおい
  • 苔や水草の成長具合、種類、移り変わり(遷移)、量の変化
  • 魚の様子(体色、泳ぎ方、しぐさ、餌の食べ具合、泳ぐ場所、魚同士の関係)
  • 繁殖具合
日本淡水魚の池

日本淡水魚の池

観察するポイントが無数にあり、完全に複雑系でカオスな世界です(笑)

温暖化の影響なのか、真夏には日陰であっても軽く30度を超えてしまいます。何かしらの対策は必要ですが、急激な温度変化は避けなければならないという「矛盾」をクリアしなくてはなりません。知恵を使った問題解決力が問われます。ゲームとは違って、実際の魚の生命がかかっているので責任重大です。本気の本気で考えなくてはいけません。

水質もデリケートです。魚も日々成長し排泄量も増えるので、全てを安定的にバランスさせるには絶えず何かしらの変化を加えて調整していく必要もあります。効果も直ぐにでないものも多いので、2週間スパンで計画し、検証していく場面も多くなってきます。

とにかく、油断せずしっかりと観察し続ける忍耐力や小さな違いに気づく感性が鍛えられます。(←やり抜く力GRIT、感性、好奇心)

 

と、つい大変なように書いてしまいましたが、子どもたちは一生懸命に考え、感じ、お世話し、可愛がります。すごく楽しいんです!(←これ大事です)

餌やりの時の魚たちは可愛いし、稚魚がぐんぐん大きく育っていくのも嬉しいし、弱っていた個体を復活させられた安堵感は忘れられません。

日本淡水魚の池

日本淡水魚の池

どんな事でも、安易に分かったつもりにならず、子ども自身が経験しながら、楽しみながら学ぶという時間は本当に貴重で、かけがえの無い財産になると思います。

もちろん、都会で池作りをすることは困難だと思いますし、生き物が好きで無いお子さんもいるでしょう。

池作りだけが探究学習ではありませんので、その子にあった探究学習をサポートしてあげれば良いと思っています。

日本淡水魚の池

日本淡水魚の池

今回は、縦糸と横糸をどのように絡めていくのかについて、少しでもイメージして頂ければと思い、一例として書いてみました。

今後、この「プチ探究ブログ」のカテゴリーでは、ちょっとした学習例を紹介できればと思っていますので、ご興味のある方は是非見てくださいね。

よろしくお願いします。

 

Nobi

NobiNob先生iです。

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