手作り紙芝居ワークショップで感じたこと

先日、手作り紙芝居のワークショップの司会と講師をさせていただきました。

ワークショップは

  1. 紙芝居の特徴(※絵本との違い、舞台(木枠)の使い方など)15分
  2. 紙芝居の作り方(種類、ストーリーの作り方、絵の描き方、脚本の書き方、演じ方など)15分
  3. 実際にオリジナル紙芝居を作ってみよう 60分
  4. 実演(自分の作った紙芝居)30分
  5. 講評(紙しばい文化の会スタッフと児童文学作家さんより)30分


という、盛りだくさんな構成になっていて、やることはいっぱいです。参加者は大人だけでなく、子どもも5名程参加してくれました。今回はその5人の子たちから学んだコラムです。

 

子どもたちの話

ワークショップに参加してくれた子どもたちは、幼稚園児から小学校5年生までと年齢の幅が広く「みんな仕上げることができるかな?」と講師の私は心配していたのですが、「どんな紙芝居の種類にするか、ストーリー構成は?、お話は?、絵の構図は?」などたくさん考えて作ってくれました。良い意味で私の予想を裏切ってくれ、どの制作工程も手を抜くことなく、最後まで完成に向けて集中して取り組んでくれていたことがとても印象的でした。そして、作るだけじゃなく、舞台(紙芝居を入れる木枠の台)に作品を入れてちゃんと「演じる」まで、しっかりとできました。

中でも、一番年下の年長さんには驚きました。最初、スタッフと一緒に一生懸命、絵を描いていたのですが、30分程して疲れが出てきました。「あー、疲れたー、もう終わりー」とだれてたので、「よし、じゃあ、言葉を入れていこう。この絵はどういうシーンなの?」と話をしていくと、どんどん言葉がでてきたのです。一場面一場面にストーリーがしっかりありました。そして全体を通しても見事に物語になっていたのです。

その後、「次は舞台(紙芝居を入れる台)に絵を入れてみよう!」と私が誘うと、一瞬もじもじしたかと思うやいなや、テンションがすごく上がり、とても嬉しそうに発表する舞台に入れて演じる練習をし始めました。

年齢的にまだ文字が十分には読めなかったので、書いてる文字を横からヒソヒソ教えてあげる形で何回も何回も一緒に練習をしました。

発表本番ですごく勿体なかったと感じたのが、頑張って練習したものの「ノコギリザメが」というような台詞が「…メが」といったように、台詞全般で「語尾」しかうまく話せなかった(声に出せなかった)ことです。

ところが、参加者のみんなが演じた後、「もう一度演じたい!」と、先ほどの一番小さい子が言うのです。

大勢の人の前で一度できなっかったことをもう一度チャレンジしたい、というこの気持ち、とそれを伝えてくれたことがまず素晴らしいと思いました。できなかったこと、と言いましたが、きっとそんな気持ちもなかったかと思います。「やりたい」という気持ち、もしくは「次はもっとできる」という気持ちが垣間見えました。
他の人の演じる姿を見て学んでくれたのでしょう。

するとどうでしょう、今度は語尾だけでなく最初から最後までちゃんと台詞が言えたのです!この変化にみんな拍手喝采でした。

子どもたちが「できた」わけ

みんな、なぜこんなにできた(やりきれた)のだろう?と疑問に思いました。スタッフも驚いてましたし、児童文学作家さんも同じように驚いていらっしゃいました。

やらされ(受け身)ではなく、作りたい子(自発的)が来てるからでしょうか。

そういえば、募集チラシの置き場所は図書館がメインでしたので、本を読む機会が多い子どもたちなのでしょう。実際、子どもの参加者の何人かは、毎月図書館で開催している公開紙芝居にも参加してくれていた子どもたちです。(確認していないのですが、もしかしたら、みんな来てくれてたかも。)

なるほど。既ににたくさんの物語が頭に入っていたのですね。そして本を自分で読むことができるのでしょう。本を自分で読めるということは、文章を頭の中で映像化(豊かに再現)できるということです。頭に映像が浮かぶから絵が描けるし、物語も出てきたのでしょう。この素地があったからこそ、楽しみながらアウトプットできたではないでしょうか。

また、30分ある講習も集中して聞いてくれていたのですが、この”話を聞く”という集中力はどこかで見たことあるぞ、と記憶を辿ってみました。

ありました。それは、小学校で行っているボランティアの読み聞かせです。小学1年生から6年生、色々なカラーのあるクラスを担当してきました。

1年生はもちろん6年生でも絵本や本の読み聞かせが大好きで、みんな話を聞こうと釘付けになってくれます。

最後に感想や疑問に思ったことなど自分の思いを話してくれる子もいます。そのくらい、集中して、心で(想像、映像化して)話を聞いてくれています。

「読み聞かせの時」と「今回のワークショップ」での子どもたちの「話を聞く姿勢」が似ているな、と感じました。

今、自分で本が読める(心で話を聞ける)ということは、これまで本を読んでもらってきた経験がきっと役立っているのでしょう。

本を読んでもらうことや自分で本を読むことは「話を聞く」能力、「ことばを映像化できる」能力とつながっていると身をもって実感した次第です。

クリエイティブな紙芝居

紙芝居を作るとはどういうことでしょうか。

「”誰に何を伝えるか”からストーリー構成を考え、脚本、絵、演出、さらに演じる」という実はクリエイティブさが必要になります。

そんなふうに見えないぐらい簡単そうでシンプルに見えますよね。

子どもでもできる簡単なやつでしょ、と思われるかもしれません。また、「紙芝居なんて…(古臭い)」といった見方をされることも多々あります。

実際に作ってみるとよくわかるのですが、シンプルだからこそ、とても洗練された言葉と絵の構図、ストーリー展開になっています。(※制限のなかで感性や知恵や創造性は磨かれる)

例えるならば、味付けは最小限に留めて素材本来のもつ旨味を引き出す日本料理のようなものですね。(和の心ですね。)

また、観客として聞くだけでも学習において大事な要素が入っています。
「ことばと映像化」の部分です。

一般的なお芝居では大きな舞台の上で役者さんが動いて演じるわけですが『「紙」芝居』は舞台が小さな木枠の世界、そこに”人(役者)”ではなく、動かない”絵”が入ります。

熟考された構図の絵から洗練されたことばが発せられると、頭で豊かに再現(映像化)しながら聞き入ることでしょう。「映像とことば」の行き来から想像力が刺激されます。だから感性が豊かで感度の高い子どもは「紙芝居」というだけで心躍るのかもしれません。

【おまけ】
このように紙芝居は想像力を刺激するため、使い方によっては啓蒙力の強い媒体となりえます。ですので、歴史的に悪用されることもありました。例えば、第二次世界大戦の啓蒙道具として使用されていたことはご存知でしょうか。既にほとんどが破棄されたようですが、今でも残っている貴重な紙芝居もあります。ご興味ある方はどうぞ調べてみてください。

【補足】
クリエイティブとは
1.想像力を使うこと
2.独創的であること
3.知識と技術を活用できること
4.目的を満たせること
5.自身でチェックできること

(イギリスのNACCCEが発表したレポートより引用)と定義されています

まとめ

そのようなクリエイティブなことを、小学生がサクッと作ったということは理論よりも感性があったということだと思います。

投げかけたことばが触媒的なヒントとなって、子どもたちが持っていたもの同士が連鎖的に繋がっていったようにも見えました。分かっていく、繋がっていく、深まっていくプロセスを純粋に楽しんでくれたな、と思います。

その根底には本の読み聞かせでの「話を聞く力」があり、本を自分で読むことで「ことばを豊かに再現(映像化)する能力」があったのではないかと思います。

ワークショップは終わりましたが、今後、より紙芝居の完成度を高めていくときに、探究する力、楽しむ力が伸びていくのでしょう。

これは紙芝居だけではなく、何にでも当てはまることでしょう。「継続は力なり」ですね。

わたしも勉強になりました。

Teku

Teku講師のTekuです。

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